2012年5月10日木曜日

【東京新聞】5.10こちら特報部「再び除染 郡山の小中学校 校庭だけでは不十分」

この記事は、東京新聞知的財産課のご厚意により特別な許可を得て掲載するものです。したがって、この記事にかぎり無断転載を厳禁させていただきます。(記事末尾に東京新聞著作権サイトのリンクを貼っておきました)


東京新聞 2012510

再び除染 郡山の小・中学校校庭だけでは不十分、ホットスポットなお多く

(凡例:オリジナル紙面の漢数字を、横組の読みやすさを考慮し英数字変換しました)
こちら特報部                          
再び除染郡山の小中学校
校庭だけでは不十分
屋外活動「制限解除」したが・・・ 20マイクロシーベルト超の場所も
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福島県郡山市の小・中学校で再び除染作業が始まった。福島第一原発の事故で降り積もった放射性物質は昨年、校庭を中心に取り除かれ、新年度からは屋外活動の制限を解除したばかりだ。だが、新たな校内調査で放射線量の高いホットスポットが多数見つかった。子ともたちが安心して学べる安全な環境はつくれるのか。(上田千秋、出田阿生)
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【左】市民の請求で情報開示された郡山市立小学校の敷地内ホットスポットの調査票。排水口や側溝で毎時マイクロシーベルトが「9999以上」と測定不能の学校もあった(一部画像処理)

同市中心部の住宅街の一角にある小学校。9日朝、体操服姿の児童が体育の授業で元気に駆け回る校庭の片隅で、業者の男性が除染作業を進めていた。ショベルカーが表土を削り、重機が入れない狭い場所は道具を使ってかきだす。作業は11日までの3日間続く。
校内にはホットスポットが点在する。校庭に設置されたモニタリングポストの値は毎時0.17マイクロシーベルトを示していたが、体育館の裏など放射性物質がたまりやすい場所の線量は高い。この日の業者の測定ではプール横の地表付近で3マイクロシーベルトを記録し、作業後は0.395マイクロシーベルトまで下がった。
国は除梁を支援する地域指定基準を毎時0.23マイクロシーベル以上とする。これは一日のうち屋外で8時問、木造家屋で16時間過ごすと仮定し、年間1ミリシーベルトとなる値だ。
市教委によると、各校で除梁を始めたのは今月7日。来月上旬まで線量が低い小中学校各1校を除く小学校57校、中学校27校で、業者に委託して体育館の裏や側溝などで作業をする。
風雨で運ばれ 数値が再上昇
各校では昨年4月以降、校庭を中心に表土を入れ替えるなどして除染した。学校管理課の三瓶克宏課長補佐は「雨や風などで放射性物質が運ばれて再び数値が上がっていると考えられた」と、今年1月から放射性物質がたまりやすい側溝やのり面など8カ所を測定するよう各校に要請。測定の結果、ホットスポットが多数見つかったため、再除梁に踏み切った。三瓶課長補佐は「線量が高いのは子どもが立ち入らない場所ばかり。仮に行ったとしても少しの問で、ほとんど影響はない」と強調するが、その数値はかなり高い。
測定結果を分析した市民団体「安全・安心・アクションIN郡山」によると、年間の積算放射線量が20ミリシーベルトになる毎時3.8マイクロシーベルトを超える場所がある学校が小学校で15校あり、最も高かった安積中の側溝では20.40マイクロシーベルトを記録した。
こうした中、市は四月から屋外での活動時間を一日当たり授業で1時間以内、部活動で2時間以内とした市独自の「3時間ルール」を解除した。
全小中学校の校庭の平均線量が0.2マイクロシーベルトを下回ったことなどが理由。
三瓶課長補佐は「もともと3時間を超えて活動していたのは中学校の一部の部活だけだった。昨年10月から全小中学生に持たせている積算線量計の値もほとんど上がっておらず、問題はないと判断した」と言う。
この調査の結果は、情報公開請求によって一般市民に明らかになった。同市民団体の武本泰さん(53)は4月20日に結果を手にし『「安全』という結論がまずありきで、市はそれを押しつけようとしている」と憤る。
「せいぜい毎時2~3マイクロシーベルトかど思っていたのに、20を超える場所があったのには驚いた。形だけの除染しかやっていないから、すぐに線量が高くなってしまう」
2枚目】

こちら特報部                          
【上】校庭に設置されているモニタリングポスト。毎時 0.178マイクロシーベルトとそれほど高い値ではなくても、校内にはホットスポットが点在する
【下】児童が立ち入らないよう、小学校の体育館裏に張られたロープ- 9日、いずれも福島県郡山市で


高線量地点な多く
専門家「疎開させて徹底対策を」
郡山市では、市内の小中校に通う子どもと保護者が昨年6月、放射線量の低い地域への疎開を求めて仮処分を申請。福島地裁郡山支部の清水響裁判長は12月、「生命身体に切迫した危険性があるとは認められない」として却下し、仙台高裁で抗告審が続いている。
一審の決定は、子どもの安全が確保されている理由として「校庭の除梁で空間線量が下がっており、学校は屋外活動を制限している」ことを挙げていた。
今回の調査結果と再除梁について「市教委は3カ月間も沈黙していた。測定は1月下旬からやっているのに、なぜ今ごろ除染なのか。データが公開されるため急遽、実施を決めたとしか思えない」と話すのは、「ふくしま集団疎開裁判」弁護団の柳原敏夫弁護士だ。
「実際はあちこちにホットスポットがありながら、屋外活動制限も解除された。一審の決定の柱だった理由が両方崩れたことになる」
この裁判に意見書を出した山内知也神戸大教授は「学校の敷地内だけ除染しても、空間線量は下がらない」と警告する。
今年2月、市内の小学校2校で放射線を測定。調べた152地点のうち27地点で、地表よりも地上1メートルで計測した線量の方が高かっだ。
「汚染土が除去された校庭では、地表の線量は下がる。ところが1メートルの高さでは、100メートル以上も離れた周辺から飛んでくるガンマ線が影響して、線量を押し上げている」。
つまり、半径数百メートルの周辺地域の線量も下げない限り、校内の除梁は不完全となってしまう。
山内教授が見つけたホットスポットの数値は、各校の結果とほぼ一致した。「雨樋や側溝で高線量箇所が見つかるのは、校舎の屋上や体育館の屋根にあるセシウムが流れ落ちるからだろう」。だが、学校の屋上や屋根の除梁は進んでいない。
空間線量の高い福島市でも、73校の小中学校で校庭の除梁は昨年8月末に終えた。学校敷地内のホットスポットの測定と除染、屋外活動の制限は、各学校の判断にまかせているという。
福島市教委の担当者は「周辺の山林などから放射性物質が学校に飛んでくることは知っている。ただ、地域全体で除梁を進めないと解決しない問題なので、手の打ちようがない」と苦悩する。
同市で地域単位の除梁が進んだのは一部地区だけ。ほとんどが手つかずなのは、住宅街には除去した汚染物質の「仮置き場」がないためだ。郡山市も事情は同じだ。
山内教授は「徹底した除梁をするなら、1年でも2年でも、学校をいったん線量の低いところに移し、その間は学校の敷地を仮置き場にするのが現実的だ。その後、汚染物質は中間貯蔵施設に移動させ、元の場所で学校を再開すればいい」と提案する。
「疎開が無理なら、学校にコンクリ壁を巡らせて周辺からの放射線を遮ばいけない状況だろう。現状は中途半端な除梁にとどまり、何もせずに放置しているのと同じ」
前出の武本さんは「まずは各校の敷地内を詳しく調べて汚染マップを作り、どの程度放射性物質が広がっているかを把握する必要がある。8カ所しか測定していない現状では、子どもにどのぐらい影響が出るのかなど分かるわけがない」と指摘し、こう力を込めた。
「安全かどうかを判断するのは市ではなく、市民。原発事故後、毎日、放射能のことを考えざるを得なかった郡山市民はかなりの知識を蓄えている。市がやるべきなのは勝手に安全と言うのではなく、市民に正確な情報を提示することだ」
【デスクメモ】
 再除染の話を知って原発事故処理の大変さに心を痛める。各校での線量調査は毎週行われ、2月下旬にはホットスポットの汚染状況は確認済みだ。ならば除染作業は春休みに行うべきだったのでは。市は心を入れ替えて市民と情報を共有してほしい。重い現実への対処の知恵もそこからしか生まれない。(呂)


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