2014年12月26日金曜日

マーシャル諸島に残る核植民地主義の遺産 @JapanFocus @bojacobs

アジア太平洋ジャーナル/ジャパン・フォーカス
アジア太平洋…そして世界を形成する諸勢力の批判的深層分析

アジア太平洋ジャーナル Vol 10 Issue 47, No. 1, 20121119
マーシャル諸島に残る核植民地主義の遺産が
国連報告で明らかに
ロバート・ジェイコブズ、ミック・ブロデリック Robert Jacobs & Mick Broderick
凡例:(原注)、[訳注]、原文イタリック

20129月、有害物質および廃棄物の環境的に健全な廃棄処分と人権の関連に関する国連特別報告者、カリン・ジョージェシュク博士は、マーシャル諸島における米国の核兵器実験プログラムの遺産に関する報告を国連人権委員会に提出した1。この遅れに遅れた報告は、太平洋におけるアメリカの核実験の歴史、その後のマーシャル諸島民の健康と福利の両面にわたる過小評価、1946年から1958年にかけて実施された67回の(大気中および海中)核兵器実験がもたらした放射能汚染に関して、手厳しい評価を下している。
マーシャル諸島の核の歴史地図(出処
この報告は、60年間の怠慢が後に残した島嶼社会と環境の両面におよぶ惨状に対処するための重要な手がかりを提示している。日本政府の助成金を受けたグローバル被ばく者プロジェクトの一環として、わたしたち自身が実施継続中である、世界の核兵器実験による社会的・文化的影響に関する調査は、国連報告者の知見をグローバルな情況に敷衍しているが、おおむねその報告を裏づけている。
ビキニ難民に提供された住宅(1948年)
これらの事象の細目はマーシャル諸島民に独自なものだが、残念なことに、この経験は冷戦中を通して国際規模の領域内で繰り返されてきたものである。米国が実施した実験は、全体の一部にすぎない。これらの核実験プログラムもまた、進行中の汚染、否定、怠慢、適正な環境修復と補償の不履行という遺産に結実した。被災した住民には、とりわけカザフスタン(ソ連の核実験)の先住民、ネヴァダ実験場(米国の核実験)、オーストラリアと旧ギルバート諸島(英国の核実験)、アルジェリアと仏領ポリネシア(フランスの核実験)の風下住民、ロプノール(中国の核実験)の少数民族がいる。他の新たな核保有諸国(インド、パキスタン、北朝鮮)においても、数えきれない地域社会が核兵器の工業生産とその燃料サイクルによる悪影響をこうむったのとまったく同じように、遠隔地における地下実験による悪影響が住民におよんだと見るのが公平である。
国連報告は、関与当事者であるマーシャル諸島共和国政府、アメリカ合州国政府、国際連合、全体としての国際社会に対する勧告事項を列挙している。わたしたちは、この誠実な情況評価と怠慢に対処するのに必要な要請を歓迎する。
報告は、米国政府が核被害補償請求裁判所によるマーシャル国民に対する個人補償に全額を拠出し、汚染の範囲に関するすべての秘密報告、米国政府によって収集された健康データ、実験の全履歴を開示し、合衆国大統領による謝罪を実施すべきであると仮借なく述べている2 。これらの国連に対する特別報告者の勧告は、世代を超えたマーシャル諸島民に関連する米国の政策の有責性と影響を公式に認定している。
体内放射性核種の検査を受けるマーシャル市民
報告の勧告項目の大半は賞賛に値するが、一部には問題がある。たとえば、勧告63a)は、IAEAが他の国の他の実験場で実施したものに似たような、独立機関による包括的な放射線学的調査を実施することとなっている。核植民地主義を実行し、維持する当事者である国々で主として構成され、IAEAと姉妹関係にある国連機関によって調査が実施されることと提案するのは、受け入れられないし、異論百家争鳴となるに決まっている。
ブラヴォー実験で放射線に被曝し、原子力委員会の医師による検査をされるロンゲラップの子ども(1954年)
なすべきことは、調査している対象の歴史的な当事者に不当な影響を受けていない適格で独立した権威者たちによる真に第三者的な放射線学的調査である。
さらに勧告63(f)は、合州国政府と締結した自由連合盟約に対する過剰依存を緩和するために経済多様化戦略を展開することと謳っており、これは賞賛に値するとしても、この過剰依存は、マーシャル諸島共和国のような地政学的な小国が超大国(たとえば、米国や中国)と二国間交渉して、経済および領土上の利得最大化の面で著しく不利な立場にあるからなのだ。これまでの例として、(日本、韓国、台湾と交渉した)言語道断なほどにも不利な漁業権付与、米国に対して現在も拡大しつつある、社会、文化、教育、経済面での依存関係と貿易・援助の不均衡などがある。マーシャル諸島やその他の小さな島嶼国が直面する状況のもとで、依存にかかわる基本的な問題を克服する方途を見つける手がかりを報告は示していない。
勧告63(i)は、社会基盤構造を整備するための国際援助を求めている。報告は、給水、衛生、廃棄物管理施設を強調しているものの、現行の輸入に頼る化石燃料に替えて、太陽光、風力、波力、潜在的には地熱といった豊富な地域のエネルギー源を活用する維持可能なエネルギー生産戦略を前面に出して推奨していない。気候変動に関連する海水面上昇と極端な気象事象によって、マーシャル諸島共和国が直面する目下の脅威を考えると、輸入化石燃料依存は二重に問題があると思える。
勧告64(f)は、該当する「アメリカ合州国政府国務担当者」に対して、過去と将来の申し立てを裁定する核被害補償請求裁判所に賠償資金全額を支給するなど、マーシャル諸島の人びとが実効的な救済を受ける権利を保証するように求めている。これは重要で強力な勧告であるが、現行の賠償メカニズムは国際資本とアメリカの株式市況の気まぐれな動きにあまりにも大きく頼りすぎている。この長期投資戦略では、経済的不透明の時代(たとえば世界金融危機後)にほとんど保護を提供しないが、基本的にアメリカの納税者が金を出す助成金がウォール・ストリートに流れ、マーシャル諸島民を利する息の長い取り組みは期待できない。
マジュロ環礁のビキニ環礁行政府庁舎に掲げられたアートワーク[「すべては神の御手に」「核兵器一発が一生を台無しに」]
最後に、また驚くべきことに、報告はクワジェリン環礁を専有する米国戦略軍事基地(ロナルド・レーガン弾道ミサイル防衛試験場)について、ほとんど述べていない。報告がこの施設を無視しているようなら、この軍事基地の運用によるマーシャル諸島民に対する戦力的・環境的影響はお構いなしということになる3。核兵器実験による数十年間の汚染、秘密、排斥、怠慢によるトラウマでいまだに苦しむ国に押し付けられる、現行のミサイル試験の心理学的影響を無視してはならない。さらにまた重要なことで、報告が考慮していないのが、マーシャル諸島共和国が他の域内諸国と締結した、太平洋内に非核兵器地帯を公式に設定するラロトンガ条約4である。
ビキニ環礁を核兵器実験場にするために強制退去させられる島民たち(1946年)
マーシャル諸島に核実験が出現してから70年近くたった今こそ、国際社会が米国の国連信託保護下にあるマーシャル諸島の人びとに降りかかった悲劇を認識する好機である。また、国際社会はこの理解に依拠して、他の植民地にもたらされた影響を認め、各地に対する同じような特別報告者査察を実施すべきである。
アメリカ核兵器ムラによる汚染実態洗浄の一例
[研究所の事業で「取り戻した島の楽園」]
(ローレンス・リバモア国立研究所出版物、1014pを参照のこと:
【筆者】
ミック・ブロデリックMick Broderickは、マードック大学[オーストラリアのパース]メディア・情報・文化学部の准教授、研究コーディネーターであり、大大学の国立映像音響アカデミー(NASS)副所長。ブロデリックの学術文献はフランス語、イタリア語、日本語に翻訳され、主だった出版物のなかに、核兵器映画参照記事(1988, 1991)があり、Hibakusha Cinema: Hiroshima, Nagasaki and the Nuclear Image in Japanese Film [『被爆者映画~日本映画に見るヒロシマ・ナガサキと核兵器のイメージ』]1996, 1999)を編集している。最近の共同編集書にInterrogating Trauma: Arts & Media Responses to Collective Suffering [『トラウマを問う~集団的苦難に対するアートとメディアの反応』](2011)、Trauma, Media, Art: New Perspectives[『トラウマ、メディア、アート~新しい視点』]2010)など。
ロバート・ジェイコブズRobert Jacobsは、広島市立大学・広島平和研究所の准教授、アジア太平洋ジャーナルの協賛会員。“The Dragon's Tail: Americans Face the Atomic Age”(2010年)著者、“Filling the Hole in the Nuclear Future: Art and Popular Culture Respond to the Bomb”(2010年)[『核の未来の穴を埋める~爆弾に対応するアートと大衆文化』]編者、“Images of Rupture in Civilization Between East and West: The Iconography of Auschwitz and Hiroshima in Eastern European Arts and Media”(2012年)[『東西間文明断絶のイメージ~東欧の芸術とメディアにおけるアウシュヴィッツとヒロシマの図像学』]共同編集者。“The Dragon’s Tail”の日本語訳書は、『ドラゴン・テール――核の安全神話とアメリカの大衆文化』(凱風社)。彼は、Global Hibakusha Project[グローバル被ばく者プロジェクト]の主宰研究者。
【追補】
ビキニ環礁の世界遺産指定の可否を考慮する別の国連報告において、検討委員会は、ビキニ環礁、その他の世界中の核実験場が「核兵器の特有の一種の核植民地主義」5に服属させられていると報告した。過去に核実験現場住民に対する比較疫学調査がいくつかあったが、この「植民地的」核の発想は、これらの地域社会に世代を超えてもたらさられる、社会的・文化的・経済的影響を理解する上で不可欠である。これが、わたしたちの進めているグローバル被ばく者プロジェクト研究の基本的な着眼点である。
国連人権理事会報告の原本は、このリンクをクリック。
Recommended citation推奨されるクレジット表記】
Calin Georgescu with an introduction by Mick Broderick and Robert Jacobs, "United Nations Report Reveals the Ongoing Legacy of Nuclear Colonialism in the Marshall Islands," The Asia-Pacific Journal, Vol 10 Issue 47, No. 1, November 19, 2012. 原子力発電_原爆の子ブログ「
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【脚注】
2 The Nuclear Claims Tribunal website.
4 “Treaty of Rarotonga."[長崎大学核兵器廃絶研究センター:ラロトンガ条約(南太平洋非核地帯条約)
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