2015年4月13日月曜日

#ECOLOGIST【評論】フクシマをよそに…日本の「原子力ムラ」が復活



フクシマをよそに…日本の「原発ムラ」が復活
After Fukushima:
Japan's 'nuclear village' is back in charge
ジム・グリーン Jim Green 2015328
いま、口を塞がれているのは、日本の報道機関である。2011413日、放射性物質を吹き出している福島第一原発から約40キロ、避難準備中の飯舘村の住民。
Photo: Kyodo News via Irish Typepad on Flickr (CC BY-NC-ND 2.0).
原子力に反対する国民世論はまだ強いが、安倍晋三の右翼政権は薄紙を剥ぐように、日本で悪名高い「原発ムラ」の主導権を――厳罰を課す報道監視法制、巨額の無利子融資、フクシマの「教訓」をすべてなきものにする決定で後押しして――回復させたと、ジム・グリーンは書く。さらなる大事故は避けられないのだろうか?
「フクシマ後の急展開として
核惨事の教訓に学び
改善がなされた
「だが、この歴史的な惨事の真の教訓とは
日本の核産業が破滅的な失策から
なにも学ばなかったことである」

原子炉の再稼働(また、より全般的には核産業)に反対する国民世論は、日本でいくらかの影響力を保っている。
日本の「運転可能」である原子炉48基のうち、最も老朽化した5基から7基は、他の原子炉の再稼働に反対する世論をなだめるために犠牲になりそうであり、地域の抵抗によって、他にもいくつかの原子炉が恒久的に停止したままになる結果となるかもしれない。
現在、日本の「運転可能」である48基の原子炉はすべて停止しており――福島第一原子力発電所の6基はリストから抹消されている。
しかし、フクシマ核惨事を招いた堕落と結託の慣行がゆっくりとだが、着実に再浮上している。「原発ムラ」が主導権を回復したのである。
エネルギー政策
民主党政権はフクシマ核事故を受けて、エネルギー政策の見直しに着手した*。核批判派、賛成派、中立派をほぼ同数で揃えた委員会の審議を終えてからの20126月、原子炉による発電量の割合を、それぞれ0%、15%、2025%に想定する3種類のシナリオが示された。
これらのシナリオが広く全国規模の公開討論に付され、その結果、疑う余地ない国民の大多数が核の段階的廃絶を支持していることが示された。国民的な討論が決め手になって、民主党政権は段階的廃絶の支持に踏み切った。
201212月総選挙のあと、返り咲いた自由民主党の政権は、原子力を段階的に廃絶する民主党の目標を拒否した。自民党政権はまた、政策を立案する委員会を組み替え、核批判派委員の数を抜本的に減らした。また委員会それ自体も、エネルギー基本計画草案の策定作業の脇に追いやられた。
これは手続きの観点から、ほぼ20年間の逆戻り」と、日本のエネルギー政策策定手続きを研究するフィリップ・ホワイト博士はいう*(前出)
「もんじゅ高速増殖炉で199512月にナトリウムが漏れ、火災が発生したのをきっかけに、国民参加と情報開示に向けた歩みが大きく前進した」と、ホワイト博士は書いた。
「国民参加が誠実に実現されなかったにしても、少なくともリップ・サービスは振りまかれた。現在の政権は口先だけでも約束する必要もないと決めてかかっているようである」
内閣が20144月に承認したエネルギー基本計画は、核エネルギー依存は「可能な範囲」で削減すると謳っており、幅広い国民の反核世論にとって、無意味なたわごとに他ならない。
ジャパン・フォー・サステナビリティ(JFS)代表でエネルギー計画諮問委員会[総合資源エネルギー調査会・基本問題委員会]から外されたうちのひとり、枝廣淳子は201411月、次のように述べている――
「現在の日本には、3.11などなかったかのように職務にあたっている政府官僚や委員がいます。彼らはその前の3040年間にわたって行ってきたように、『原発に力を注ぎ』続けているのです。
「悪名高い、いわゆる「原子力ムラ」と呼ばれるものが存在しています。これは原子力担当の政府官僚、業界、学術界のグループで、大きな力を持っています。そして、現在のところ何も変わっていません。原子力の政策と運営を監督する原子力規制委員会の現委員長は、原子力ムラのメンバーだという声もあります」*
「事故は必ずまた起こります」
内閣官房「東京電力福島原子力発電所における事故調査・検証委員会」の元委員長、畑中洋太郎は最近、フクシマ以前の無頓着な姿勢が再来していると朝日新聞に語っている*
東京大学の機械工学名誉教授である畑中は、フクシマ惨事の原因を究明する「科学的な検証がおこなわれていない」という。
政府事故調報告は核惨事の原因を究明する努力の継続を政府に求めたが、その勧告は「ほとんどなにも」最近の政府の措置に反映されていないと畑中は述べた。
畑中はさらに、フクシマ後に規制を厳しくした核安全基準を適用しているが、この「ハードルを上げただけで…状況は事故前と変わらないと思う」という。
「(政府の行動を)ちゃんと見る組織も動いていないように思える。安全評価を監視しても、想定外のことが常にあり、事故は必ずまた起こる」と、畑村は語った。
畑村は避難計画の妥当性を疑い、フクシマ事故を完全に反映せずにまとめられているという――「策定された避難計画にもとづいて、原発ごとの30キロ圏内の住民全員を対象とした避難訓練を実施するなり、じゅうぶんな準備が整って初めて、原子炉の再稼働を宣言すべきなのです」。
原子力委員会
民主党政権は20129月、内閣府原子力委員会(JAEC)の在り方見直しを「その廃絶または再編に留意して」実施すると約束した。政府は見直しのための有識者会議を設置し、会議は201212月に『原子力委員会の在り方見直しについて』報告を公表した。自民党が政権奪還を果たすと、新政権は報告を棚上げし*、新たな見直しに着手した。
二つ目の見直し案は、原子力委員会がもはや包括的な原子力政策大綱の策定を担当することはないと勧告していた。ところが、ある自民党の委員会が、原子力政策大綱と実質的に同等な意味合いをもつ原子力政策の取りまとめを原子力委員会に委ねることに決めたと伝えられている。
二つの見直し案が出て、変化はほとんどなかった――原子力委員会は廃絶からほど遠く、原子力政策を策定する役割を引き続き保持することになった。自民党はそのうえ、原子力の推進機関である原子力委員会が、核廃棄物最終処分場の選定にさいして「第三者機関」として行動できるようにすることを提案した。
2月に開かれた経産省パネル会合に出席した有識者の一部は、原子力委員会の独立性に疑問を表明した*
東電に対する政府の巨額資金援助
東京電力の国有化、あるいは事業部門ごとの企業分割を要求する声は大きいが、自民党政権は東京電力を擁護し、支援してきた。政府はまた、東京電力に対する資金援助を大幅に拡充した。
たとえば、政府は20141月、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が東京電力に供与する無利子融資の上限額を5兆円から9兆円に引き上げることを承認した*
政府はまた、福島第一原発敷地外の除染作業で発生する廃棄物の中間貯蔵施設の整備に要する推計11000億円など、以前は東電に支払いを求められていたフクシマ事故の処理費の一部を肩代わりしようとしている*(前出)
政府はまた、「電気事業会計規則等の一部を改正する省令」を施行し、「原子力発電所の廃炉に係る料金」を電気料金に上乗せする期間を原発の閉鎖後10年間までに延長した。この省令改定によって、東京電力が福島第一原発の廃炉作業のために購入する追加的な機器の減価償却費を電気料金に上乗せできるようにもなった。
原子力問題調査特別委員会
自民党政権による原発ムラ再編の手始めの一例として、原子力行政を監視するものとして、2013年に自民党政権が設置した[衆議院]原子力問題調査特別委員会を挙げられる*
その委員の過半数は自民党議員だった。自民党・国会対策委員会の幹部は、「われわれは反原発議員を排除した」と発言した。自民党の国会議員であり、反原発に賛同する国会議員の超党派グループに加わる河野太郎は、委員会に参加することを望んだが、相手にされなかった。この特別委員会は皮肉なことに、国会事故調の提言にもとづいて設置されたものだが、提言がいましめていた冷笑的な縁故主義めいたものを招く結果になった。
メディアの検閲と威嚇
日本はフクシマ核惨事以降、国境なき記者団「報道の自由」世界ランキング*の順位を2010年の第11位から最近の61位へと着実に下げている**
* Reporters Without Borders: 2015 World Press Freedom Index
** The Wall Street Journal, Feb 13, 2015: Japan Slips in Press Freedom Ranking
ジャーナリストが「犯罪者訴追」と名誉毀損訴訟で脅されており、日本の「国家秘密」法*[リンク切れ]が日本の核産業に関する調査報道をやばい仕事にしている。201412月に施行された特定秘密保護法のもとで、政府は――広範に指定される――政府の秘密を漏らした者を10年の刑務所送りにできる**(前出)
国境なき記者団のベンジャミン・イスマイルは20143月、次のように書いた――
「われわれが2012年時点で恐れていたように、情報をやりとりする自由が、この核惨事の余波を処理する自分たちなりの対策に関する報道を抑えようとする『原発ムラ』と政府によって制限されつづけている。
「その長期的影響はいま浮上しはじめたばかりであり、健康リスクと公衆の健康問題はかつてないほど重要である」
国境なき記者団は20143月、次のように声明した*[リンク切れ]――
「日本と外国の記者たちがそろって、(フクシマ核)惨事とその影響を伝えようとする独立報道を抑えるために当局者らが用いた、さまざまなやりくちを国境なき記者団に書いてよこした。記者たちは反原発デモに関する報道を妨げられ、原発周辺に指定された『レッドゾーン』に入域すれば、刑事告発すると脅された。
「彼らが諜報機関によって尋問され、脅迫にさらされることさえあった」
教訓が学ばれ…早々と忘れ去られた
日本の原発ムラの腐敗と共謀行為は、フクシマ核惨事以前にも、おびただしい数の事故を招いていた*
Friends of the Earth (FoE) Australia;
Japan's nuclear scandals and the Fukushima disaster
そして、日本の原発ムラの腐敗と結託は、フクシマ核惨事そのものの根本的な原因だった。この点に関して、国会事故調は鈍感になるわけにはいかなかった――「事故は、政府、規制機関、東京電力の結託、そしてこれらの当事者による管理の欠如の結果である」。
フクシマ後の急展開として、核惨事の教訓に学び、改善がなされた。だが、この歴史的な惨事の真の教訓とは――少なくとも日本の――核産業が破滅的な失策から、なにも学ばなかったことである。
畑中洋太郎がいうように、事故は必ずまた起こる。
【筆者】

ジム・グリーン博士Dr Jim Greenは、地球の友・オーストラリアの全国核キャンペーンの世話人、ニュークリア・モニター“Nuclear Monitor”ニュースレター編集者であり、本稿の初出は同紙(2015319日付け第800号)。

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