2015年8月19日水曜日

エコロジスト誌【論文】イアン・フェアリー博士「フクシマ:数千人が死亡し、数千人が死亡するだろう」





フクシマ:数千人が死亡し、数千人が死亡するだろう

イアン・フェアリー博士 Dr. Ian Fairlie
2015817

死の影が忍び寄る谷~2015年3月、福島第一原発の近隣地。Photo: Lucas Wirl via Flickr (CC BY-NC).

イアン・フェアリーは、フクシマから届く新たな証拠によれば、強制避難の結果、2,000人もの多くの人びとが死亡し、さらに5,000人が癌で死亡するだろうと書く。核惨事による死亡者数に関する今後の評価には、直接的な放射能の影響による死亡に加えて、強制移住を原因とする健康悪化および自殺による死亡を含まなければならない。

フクシマに関する公式発表データによれば、惨事による高レベル放射線被曝を避けるために必要だった避難の影響によって、2,000人近くの人びとが死亡した。

不慣れな地域への強制移住、家族の絆の断絶、社会扶助の繋がりの喪失、混乱、疲労困憊、貧弱な健康状態、方向感覚の喪失は、多くの人びとにとって、特に高齢者にとって、死亡原因になりかねないし、そうなった。

フクシマ惨事による避難のあと、老若男女の自殺が増えたが、その傾向は不明瞭である。

日本政府内閣府の調査では、核事故関連の自殺20113月から2014年までに56件に達した。この数値は、最大値ではなく、最小値であるとみなされるべきである。

精神的健康面の影響

放射能被曝と避難が精神的健康におよぼす影響を加える必要がある。たとえば、ベッキー・マーティンは英国サザンプトン大学の学位論文で次のように述べる――

「放射線緊急事態の最も重大な影響は、わたしたちの心のなかに作用することが多い。

「あなたの土地、あなたの水、あなたが呼吸する空気が、命にかかわり、目に見えない汚染物質で汚されたことを知らされたと想像してみるがよい。あなたの生殖能力を奪い、あるいはあなたのまだ生まれてもいない子どもたちに影響をあたえる能力をもったなにかで汚染されたのである。

「わたしたちのうち、最も強靭な人間でさえも不安になるだろう…何千、何万人もの放射線緊急事態被災者たちは、みずからの体験、そして自らの健康を取り巻く不確実さの結果、心的外傷後ストレス障害(PTSD)、鬱(うつ)病、不安障害を発症したのだ」

こうした恐怖、不安、ストレスが、避難の影響を増幅し、高齢者の死亡や人びとの自殺の数をさらに増やす結果になっていると見るのが、妥当なようである。

しかしながら、このような考察を、避難に反対する主張とみなすべきではない。これは、重要な、命を守る戦略なのだ。けだし、ベッキー・マーティンは次のように論じた――

「わたしたちは、再定住と大規模な長期心理療法につづけて、放射線緊急事態被災者の全員に対する社会的支援の大幅な改善に取り組み、彼らの健康状態を改善し、彼らの将来を保全する必要がある」

妊娠の不吉な結末

ドイツはニュルンベルグ出身のアルフレッド・コーブライン博士は最近、核事故の9か月後、201112月時点における福島県内の生児出生数が(統計的に有意性が高い)15%の下落を示していることに気づき、報告した。

これは、妊娠初期における自然流産率の上昇を示唆しているのかもしれない。博士はまた、福島県と周辺の6県を合わせた長期的な傾向に比べて、2012年の幼児死亡率が(統計的に有意な)20%の上昇を示していることを認め、博士をその原因を放射能汚染食品の摂取に帰して、次のように述べている――

「幼児死亡率が、フクシマ事故から1年以上あとの20125月に最高値になっているという事実は、その上昇が、外部放射線被曝というより、内部被曝の影響であることを示唆している。

「(チェルノブイリ核惨事後の)ドイツにおいて、周産期死亡率が、妊娠中の女性におけるセシウム負荷のピーク期よりも7か月の時間差で遅れて最高値を記録した。20125月から7か月を引き算すると201110月になり、これは収穫季の終わりにあたる。それ故、2011年秋における汚染食品の摂取が、2012年における福島県内の幼児死亡率過剰の説明になるかもしれない」

これらは、決定的というより、示唆的な知見であり、今後の研究で検証する必要がある。残念なことに、そのような研究は実施されていないことで、かえって目立つ。

癌、その他の放射性フォールアウトの遅発効果

わたしたちは最後に、20113月のフクシマにおける4回の爆発と反応炉3基のメルトダウンによる放射性フォールアウトに由来する放射能被曝の長期にわたる健康に対する影響を考察しなければならない。日本では、この問題に関して見解の大幅な違いが存在する。そのため、一般人とジャーナリストが、実情はどんなものかを理解するのが難しくなっている。

日本政府、その顧問たち、日本の(名誉ある一部の例外を除いた)たいがいの放射線科学者たちは、放射線のリスクを最小限に評価している。広く見受ける公的な方針は、少量の放射能は無害というもの。科学的にいって、これは支持できない。

たとえば、日本政府は公衆の年間被曝放射線量限度を1 mSvから20 mSvに引き上げようとしている。政府御用の科学者たちは、この大幅な引き上げを受け入れるよう、ICRPに強要しようとしている。これは科学にもとるだけではない。良心にももとっている。

この方針の理由の一部は、日本の(またアメリカの場合にも言えるが)放射線科学者たちが低レベル放射線効果の確率的な性格を認めることができない、またはその意志がないようである点にある。「確率的」とは、イチかバチかの反応を意味する。癌になるか、ならないかである。

あなたの被曝線量を下げれば、作用の蓋然性は低減する。つまり、被曝線量を低くして、ゼロに近づけるほど、あなたが癌になる可能性は低くなっていく。当然の結果として、被曝線量がとても小さく、たとえバックグラウンド放射線量より下であっても、やはり癌になる小さな可能性を免れない。すなわち、線量ゼロ以外には、安全な線量はないのである。

だが、Spycher et al (2015)が観測したように、「低線量放射線が癌のリスクを増大させる可能性を、経験にもとづかないで、演繹的に排除し、それ故、みずからの予断的結論に異議を提起する研究を受け入れようとしない」一部の科学者らがいる。
[訳注]ベン・D・シュピヒャー主著の当ブログ翻訳論文「バックグラウンド放射線と小児癌リスク国勢調査にもとづくスイス全国コホート研究」。

そういう科学者たちが放射線の確率論的な作用(癌、脳卒中、心血管疾患、遺伝的影響などなど)を受け入れるのを拒む、ひとつの理由は、長期にわたる――固形癌の場合、数十年かかることが多い――潜伏期間が終わったあとで、彼らが登場するだけだからである。日本政府とその放射線科学の御用顧問たちにとって、見ていないものは論外ということのようだ。

この理由は、日本政府が放射線の晩発効果を無視するのを都合よく許すものである。だが、晩発効果の証拠は疑問の余地なく、盤石のように揺るがない。その証拠は皮肉なことに、もともと世界最大規模で現在進行中の疫学研究、広島と長崎に拠点を置く放射線影響研究所RERF)による日本の原爆被爆者に対する寿命調査(LifeSpan Study, LSS)に由来している。
[訳注]当ブログ翻訳論文:放射線影響研究所「原爆被爆者の死亡率に関する研究:19502003」。

チェルノブイリの教訓

1986年のチェルノブイリ惨事に由来する証拠の大量蓄積が、癌などがフクシマで増加する可能性が非常に高いことを明確に示しているが、日本の(またアメリカの)科学者には、この証拠を否認する輩が多い。

たとえば、福島県で、核惨事に由来する甲状腺の癌、嚢胞(のうほう)、結節が増えており、その存在と解釈を巡って、目下、盛大に論争中である。チェルノブイリ後の知見によれば、2011年から4ないし5年後に甲状腺癌が増えはじめると予測される。

2016年に明確な結果が得られるようになるまで、コメントを控えるのが最善であるが、初期の兆候は日本政府にとって安心できるものではない。その後、他の固形癌もやはり増えることが予測されるが、それが明らかになるまで、しばらくかかる。

晩発効果(つまり癌など)の数を予想する最良の方法は、フクシマ放射性降下物による日本の集団線量を推計することである。わたしたちは、日本に住み、フクシマからの放射性フォールアウトに被曝した全員が、つまり宝クジを受け取ったのだと想定することによって、この方法を実行した。しかし、これはマイナスのクジ札である。クジ番号が合えば、あなたは癌に当たる[1]

あなたが福島第一原発から遥か遠くに住んでいれば、もらえる宝クジの枚数が少なくて、可能性は低い。近接して住んでいれば、もらえる枚数が多くて、可能性は高くなる。だれの運が悪いか、言い当てることはできないが、集団線量を用いれば、合計数を推計することはできる。

原子放射線の影響に関する国連科学委員会2013年報告(2013 UNSCEAR Report)は、フクシマによる日本住民の集団線量を48,000人・シーベルトと推計している。これは非常に大きな線量である。以下に、説明しよう。

残念なことに、核推進派の日本人科学者たちはまた、集団線量の概念をも、放射線の効果の確率論的な性格、ならびに彼らがやはり異を唱える線形閾値なし(LNT)モデルに依拠しているとして批判してもいる。だが、世界中のほぼすべての公的規制機関は、放射線の効果の確率論的な性格、LNTモデル、集団線量を是認しているのである。

フクシマ総括

20113月の福島県における現実の避難の真っ最中に、約60人が死亡した。2011年から2015年のあいだに、福島県において、1,867人が余分に死亡しており[2]、これは核惨事につづく避難の結果である[3]。死亡原因は、健康障害と自殺である。
315日付けThe Japan Times, Deathtoll grows in 3/11 aftermath.[訳注]福島民報記事の英訳だが、元の記事は削除されているようだ。ブログに引用されている:私の原発日誌(497) 震災関連死1867人(福島)

集団線量を48,000人・シーベルトとするUNSCEAR推計から、(シーベルトあたり10%とする致死性癌のリスク係数を用いると)今後の日本でフクシマのフォールアウトに起因する致死性癌が約5,000症例になると正確に見積もることができる。この公式データにもとづく推計は、別の方法を用いたわたし自身の個人的な推計と一致する。

総括していえば、フクシマ核惨事による健康障害は恐ろしい。最低限のことを列挙してみよう――

·         160,000人を超える人びとが避難を余儀なくされ、そのほとんどは恒久的である。
·         心的外傷後ストレス障害(PTSD)、鬱(うつ)病、不安障害の症例が多発。
·         12,000人の労働者が高レベル放射能に被曝し、その一部は250 mSvに達する。
·         放射能被曝による今後の致死性癌発症数は、推計5,000症例。
·         癌にプラスして、放射能起因性の脳卒中、心血管疾患、遺伝疾患の症例の(数値化されてはいないが)同じような多発。
·         2011年から2015年にかけて、放射能関連避難に起因する健康障害と自殺による約2,000死亡例。
·         いまだに数値化されていない甲状腺癌症例。
·         2012年における幼児死亡率の増加、および201112月における生児出生数の減少。
健康面以外の影響を、挙げてみると――

·         東京の一部を含め、日本国土の8%(30,000平方キロ)が放射能汚染。
·         3000億ドルないし5000億ドル(現時点レートで37兆円ないし62兆円)の経済的損失。
繰り返してはならない破局的惨事

フクシマ事故はいまだに終わらず、その悪影響は将来まで長期間にわたり受け継がれていくことだろう。しかし、いまは、フクシマにおける核惨事が日本とその人びとに巨大な打撃を与えたと言うことができる。

2,000人の日本人が、避難のため、すでに亡くなっており、さらに5,000人が、今後の癌のため、死亡すると見積もられている。

死亡、自殺、精神健康障害、人的被害といったフクシマの犠牲に、こころ動かされないのは不可能である。日本国に対するフクシマの効果は、1986年における旧ソ連に対するチェルノブイリの巨大な打撃に相等する。

実に、数名の作家らは、チェルノブイリ核惨事が、その後1989年から1990年にかけて起こったソ連邦崩壊の主要因だったとする見解を表明している。

チェルノブイリ事故当時のソ連邦大統領、ミハイル・ゴルバチョフ氏、そしてフクシマ事故当時の日本国首相、菅直人氏は両名揃って、原子力に反対する立場を表明していることは、よく知られている。菅氏は実に、全原発の撤廃を要求した。

日本政府、ならびに(英国と米国を含め)実に他の諸国は、チェルノブイリとフクシマの核惨事から学んだのだろうか? かつて米国の哲学者、ジョージ・サンタヤーナ(1863-1962)は、歴史に学ばない人間は、それを繰り返す定めにあると述べた。

【筆者】

イアン・フェアリー博士(Dr. Ian Fairlieは、環境における放射能のコンサルタント。 ロンドン、バーツ保健NHS信託病院における放射線生物学の学位を保持、インペリアル・カレッジ・ロンドンおよび米国のプリンストン大学において、核燃料再処理の放射線学的な危険性に関する博士課程研究に従事。

フェアリー博士は、かつて英国環境食糧省において、原子力発電所による放射線リスクを担当する公僕だった。2000年から2004年にかけて、英国政府の内部放射体による放射線リスク検討委員会(CERRIE)の事務局長を務めた。政府の公職を辞してから、欧州議会、地方自治体、環境NGO、民間人のコンサルタントとして活躍している。

この記事の出処であるIan Fairlie's blogを参照のこと。

【謝辞】

Azby Brown、平沼百合、勝田忠広博士、Dr Alfred KörbleinBecky MartinMycle Schneiderのみなさんに初期草稿に対する評言をいただき、感謝を申しあげる。本稿中のいかなるエラーも、筆者の責に属す。

【原注】

[1マイナスの宝クジ札のアイデアは、米国のJan Beyeaによる発案。

[2] 20153月に修正


[3核惨事被害に加えて、福島県における地震と津波による直接死亡者数は1,603人であり、宮城県と岩手県における津波避難関連死は、ほぼ1,350人である。後者の場合、避難は放射能関連ではなかった。


【関連論文】

2012525

2015429

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