2016年4月19日火曜日

ヴィンセント・ディ・ステファノ【海外論調】緩慢な出血☢#フクシマ5周年


緩慢な出血:フクシマ5周年

ヴィンセント・ディ・ステファノ Vincent Di Stefano

2016415



フクシマの3号炉と4号炉

2011311日の地震と津波につづいたフクシマの核反応炉3基のメルトダウンは、いつのまにか――かつては反応炉で核分裂していた炉心に収まっていた放射性元素が、煮えたぎる大釜から密〔ひそ〕やかに現地の地下水と海中に流れだすのと同じように、いつのまにか――わたしたちの集団意識から抜けていったようだ。このできごとは、自由落下状態にある文明の終末を映しだす廃墟のいびつなモザイク模様のさらにもうひとつの日常茶飯である。

アーニー・ガンダーセンは、この何日か、少しばかり浮かない顔をしている。彼は、5週間の日本講演旅行から帰ってきたばかりである。彼は旅行期間のあらかた、消えることのないフクシマの破局的事故の刻印を人生に受けた多くの人たちとともに過ごしていた。彼が報告することが、主流メディアで報道されることはなさそうだが、大きな政府と大企業の秘められた謀略となれば、いつもの話である。

ガンダーセンが話すことは、しっかり傾聴する値打ちがある。彼は核エンジニアであり、40年あまりにわたりアメリカの核産業に深くかかわってきた。彼は格納容器構造の安全性に特に関心があり、核の安全性を図る装置の特許を保有している。彼はまた、米国内70か所の核発電所で核にまつわる事業を管理・調整しており、核企業の元上席副社長である。彼は業界通であり、とりわけ業界の有毒な下腹部によく通じている。

アーニー・ガンダーセンは1979年スリーマイル・アイランド事故調査の鑑定人を務め、この特異事象による放射能の放出量の値が、後に政府報告で公表された数値より15倍高かったことを見つけだした。あまりにもしばしば核産業やその政府内シンパによる発言に付きものである詭弁やごまかしに対して、彼は素人ではない。

ガンダーセンは20年あまり、核産業に関する現役の批評家として活動してきた。彼は最近、フクシマに関するグリーンピース・インターナショナル報告を共同執筆した。彼はメルトダウン後の数日間と数週間、フクシマで予測される事態に関して、公然と力を込めて発言した最初の北米人解説者のひとりになった。彼はその時以来、フクシマにおける状況の推移とそれが日本の住民と地球社会におよぼす影響に関して、確かな情報を論拠にする語り部として疲れしらずの働きをしてきた。

アーニー・ガンダーセンは、日本政府が日本の銀行と電力会社の利益を自国民の安全に優先させつづけていると報告する。2011年フクシマ核メルトダウン後の短期間のうちに、当時、政権の座にいた日本民主党は、恣意的に放射線被曝「許容」限度を1ミリシーベルト/年――国際放射線防護委員会が勧告する最大線量――から20ミリシーベルト/年へと20倍に引き上げた。それより10年あまり前の1998年、ロザリー・バーテル[参照:反核シスター]が米上院委員会で証言したさい、核産業労働者における、白血病や骨髄腫、および膵臓、肺、女性生殖器の癌の症例数の有意な増加に、ずっと低い値の2.5ミリシーベルト/年の被曝が関与していることを明示する、英国医学会会報、米国医師会誌などの査読済み論文誌で発表された一連の独立研究による知見を提示していた。

日本の医師たちが、患者――とりわけ子どもたち――に認められる放射線被曝の影響に直面しはじめるにつれ、政府はいま、患者に認められる放射線誘発性の疾患を診断書に記録する医者に対する支払いを拒否している。このことは、チェルノブイリ核メルトダウン後の国民の生命に対する放射線被曝の影響を扱った医学論文に対して、組織的な抑圧で応じてきたソ連政府および後のロシア、ウクライナ、ベラルーシ各国政府の措置を追ってきた人間には、驚きでもなんでもないだろう。

椅子を並び替える


フクシマ避難民の仮設住宅

メルトダウン以来、いまだに100,000人あまりの人びとが福島県の自宅に戻ることがかなわないでいる。気が滅入るような話だが、ガンダーセンは、避難民の多くが、日本政府からも、福島第一原発の事業会社、東京電力からも放射線被曝問題に関する情報を受け取っていないと明かす。避難を指示されて以来、避難民が受け取ってきた生活扶助給付金は、20173月に打ち切られることになっている。汚染状況がいまなお継続しているにもかかわらず、政府が元居住者に対して、フクシマに帰還し、耐えるように強いる相当な圧力をかけている。このような動きが今後の健康と彼らの家族におよぼす影響について、深刻な懸念を抱く人は多い。


3000万袋の放射性廃棄物

現在の状況のもうひとつの注目すべき側面が、高度に汚染された物質――放射性の土壌、草木、その他のデブリなど――が扱われている様相である。これまでに3000万トンに達する、そのようなデブリが福島県各地から集められてきた。その多くが目下、900万袋あまりの大きなプラスチック・バッグに詰めこまれ、被災地の全域に散在して保管されている。詰めこまれてから3年たって、袋が劣化分解しはじめているが、少なくとも今後30年間、その中身を隔離保管しなければならず、次にどうするか、だれにもわかっていないようである。お気に入りにされている選択肢が、焼却処分である。燃やしてしまえば、確かに嵩は減るが、アエロゾル(大気中浮遊粒子)形態の放射性元素を日本全域にさらに拡散する結果になることは避けられない。

汚れは薄めると消えるという、昔ながらではあっても、究極的には凡庸な格言にしがみつく輩が確かにいる。


フクシマの汚染水保管タンク群

固形廃棄物の問題を小さく見せるものが、溶融炉心から地下水と海水に浸出しつづけている放射性元素の問題である。格納容器に複数の割れ目ができてしまった結果、これまでの5年間、連日200ないし500トンの地下水が反応炉内を流れている。最近になって、この水の一部が反応炉を迂回して流れるようにされたが、一日あたり推定150トンの地下水が反応炉内を流れつづけている。この放射能で汚染された水は容赦なく流れつづけ、北太平洋へと着実に浸出する。さらにまた、メルトダウン以降の冷却業務で回収された、目下700,000万トンの高レベル放射能汚染水が、いまや原発敷地一面に立ち並んでいる巨大なタンクに保管されている。汚染水が溜まり続けているので、もっと多く建造されている。

悲劇の凡庸さ

今後の30年ないし40年、技術者たちがフクシマ反応炉の基盤部で煮えたぎっている放射能の大釜に蓋をする仕事で忙しいだろうことは、周知の事実である。その間、太平洋テクトニク・プレートがそれ自体の容赦ない動きをつづけ、日本列島が乗る大陸側のオホーツク・プレートの下に潜り込んでおり、2011311日に同地を揺るがした事態と同じような今後の巨大断層衝上(突き上げ)事象が起こる条件を準備している。声に出されない恐怖とは、すべてが一瞬のうちに再現されてしまいかねないことである。

フクシマで起こった事態をよそに、安倍政権は2011年震災後に全基が停止された日本の核反応炉を再稼働させると決意している。日本全国で広く挙行された反核抗議行動は無視され、20158月以降、鹿児島県と福井県の核反応炉3基が再稼働された。来年にかけて、さらに6基ないし12基の反応炉が操業を再開する予定になっている。ビジネスがいつものように君臨している。

人間と環境に対する影響を顧みずに、核の怪獣を乗りこなすと誇らしげに言い張る輩は大勢いる。連中は、これが未来の流儀であり、大気中二酸化炭素レベルの上昇、海洋の酸性化、極氷の溶融にともなうアルベド効果[太陽光を反射して惑星気温の上昇を抑制する作用]の喪失、北部永久凍土帯と海底堆積層の溶融にともなうメタンガスの膨大な新しい井戸からの沸騰など、さまざまな問題の解決に「必要」な方策であると主張する。エドウィン・アーリントン・ロビンソン(EdwinArlington Robinson)の不滅のことばを借用すれば、このまだ名付けさえされていない、この愚かさをどうしたものか?

アーニー・ガンダーセンの報告

本稿文末に添付したビデオは、最近の日本講演旅行から帰宅した直後に録画された、アーニー・ガンダーセンとマーガレット・ハリントンのインタビューの映像である。前半部25分間のインタビューは、人類史上最悪の産業事故が日本国民におよぼした影響の様相、ならびに日本政府がいま、自国民の福利よりも、電力会社とその融資銀行の利益にますます奉仕している様相に対する深層洞察を与えてくれる。アーニー・ガンダーセンは、このプレゼンテーションにおいて、フクシマで進行した事態に関して、疑う余地なく明晰である。また、メルトダウンがもたらす現在および将来の影響を過小評価する日本政府と東京電力の両者による倫理放棄を彼は見逃していない。

この映像記録の後半部は、これまで5年間のフクシマの推移に関するガンダーセンの詳細な総括を提示している、後半部を切り取った高解像度版をYouTubeで閲覧できる。



Vincent Di Stefano 
ヴィンセント・ディ・ステファノは、自然医薬療法の退職教育者・開業医であり、“Holism and Complementary Medicine. History and Principles” (Allen and Unwin, 2006)[ホーリズム(全体論)と補完薬物療法:歴史と原則]の著者。彼は今も変わらず、個人的、社会的、霊的、環境的レベルにおける癒やしの本質に関する探究に専念するとともに、今の御時世を貫く乱流に対する情報収集活動を維持している。彼はブログIntegral Reflectionsに定期投稿しており、このブログで彼に連絡できる。

【クレジット】

Countercurrents.org, “The Slow Bleed: Fukushima Five Years On,” by Vincent Di Stefano, posted on 15 April, 2016 at http://www.countercurrents.org/stefano150416.htm, originally posted at the blog ‘Integral Reflections’ http://thehealingprojectweblog.blogspot.com.au/.

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