2016年6月13日月曜日

【海外報道】フクシマで初めて声を上げる甲状腺癌の若い女性 via @AP @yurikageyama


フクシマで甲状腺癌を診断されながら
沈黙を破った女性

影山優理 YURI KAGEYAMA
201667


この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって、叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。(AP Photo/Yuri Kageyama)

この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって、叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。 (AP Photo/Yuri Kageyama)

この2016528日撮影の若い女性は、嫌がらせを恐れて、匿名を希望したうえで、福島県内の町でAP通信の取材に応じている。彼女は福島県内で甲状腺癌と診断された173人の患者のひとりだが、同県における核事故から5年たって、報道機関に話す初めての患者である。「わたしのように、あけすけにモノを言う人は、あまりいません。だから、わたしは他の人たちも同じように感じられるように声を上げているのです。わたしは物事がうまくいくと信じる質なので、声を上げることができるのです」と、彼女は語った。(AP Photo/Yuri Kageyama)

【資料】この2011324日撮影の資料写真で、避難所にいる幼い避難者が津波で被災した福島第一核発電所から放出された放射能の検査を受けている。福島県における甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる率の何倍も高いが、日本政府は、たくさんの症例が見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないといっている。(AP Photo/Wally Santana, File)

【資料】この2011313日撮影の資料写真で、津波で被災した福島第一核発電所の周辺地域から避難した住民たちが福島県郡山市で放射能被曝の検査を受けている。福島県における甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる率の何倍も高いが、日本政府は、たくさんの症例が見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないといっている。(AP Photo/Wally Santana, File)


【郡山市発AP通信】彼女は21歳、甲状腺癌を発症しており、日本の北東部、彼女が暮らしている県の人びとが甲状腺癌検査を受けてくれるように願っている。その声は挑発的であると思えないが、居住地が福島県であり、この県で2011年に核メルトダウン事故が勃発してからこれまで、甲状腺癌の確定症例またはその疑いと診断された173人の若い人たちのなかで、彼女は怖じけずに声を上げる最初の例なのだ。

そのような沈黙に近い状態が、フクシマの甲状腺癌患者たちが「出る杭」になって叩かれるのを恐れる状況を浮き彫りにしている。

福島県の甲状腺癌発症率は、一般的に見受けられる割合より何倍も高いが、日本政府は、症例が数多く見つかっているのは、綿密な一斉検査のせいであって、福島第一核発電所から放出された放射能のせいではないとしている。

この頑なに和を尊ぶ社会では、政府の見解に楯突いていると睨まれるものなら、大事になる。この唯一の原子爆弾被爆国では、放射能に関係しているかもしれない癌の患者であることは、汚名になる。

くだんの若い女性は、嫌がらせの恐れから匿名を条件に、次のように語る――

「わたしのように、あけすけにモノを言う人は、あまりいません。だから、わたしは他の人たちも同じように感じられるように声を上げているのです。わたしは物事がうまくいくと信じる質なので、声を上げることができるのです」

彼女は人懐っこくよく笑い、つややかな黒髪に恵まれている。ビーチサンダル履きである。新しく就く保育園の先生の仕事のことになれば、夢中になって話す。だが、その彼女の不安もまた深刻である。結婚することができるだろうか? 生まれる子どもの健康に差し障りがないだろうか?

彼女は、国連「原子放射線の影響に関する科学委員会」などの医学界が、フクシマ核惨事よりも苛酷だったとされる唯一の核事故、ウクライナのチェルノブイリで1986年に勃発した爆発と火災によって周辺地域に放出された放射性ヨウ素と明らかに関連していると認定した唯一の疾患を発症している。

フクシマに関する国際的な検証では、同地のメルトダウンの結果として、癌発症率が上昇することはないと予測されているものの、福島県における甲状腺癌発症率の高さは事故に関連していると信じている研究者らもいる。

政府は、地震と津波が核発電所を冠水させ、3基の反応炉をメルトダウンに追い込んだ20113月の時点で18歳以下の子どもだった福島県内の380,000人に対して医療検査を実施するように命じた。約38パーセント分の検査がまだ済んでおらず、現時点の年齢が18歳ないし21歳の人たちに限れば、この割合は75パーセントに跳ね上がる。

くだんの若い女性は、恐れていたり迷っていたりしている他の人たち、とりわけ子どもたちを助けたいと思って、人前に出たと話した。彼女は、自分の病気が核事故のせいなのかどうか、わからないが、安全第一を考え、子宮癌など、他に考えられる疾患の検査を受けるつもりでいる。

彼女は福島県内で応じたインタビューで、次のように語った――

「すべての人たち、すべての子どもたちが病院に行って、定期検診を受けてほしいですね。いまの人たちは、面倒くさいからとか言って、やらない人が多いので。わたしの場合、癌が早いうちに見つかったのですが、その早期発見が重要なのだと知りました」

甲状腺の癌は治療が最も容易な癌に分類されているものの、一部の患者は生涯の薬物投与を必要とし、すべての患者が定期検査を欠かすことができない。

この若い女性は、癌が見つかった片方だけの甲状腺の除去手術を受け、痛み止め以外の薬を必要としていない。しかし、彼女はホルモン・バランスが乱れやすくなり、以前より疲れやすくなった。かつての彼女はスポーツがスター並みに得意だったし、いまでもスノウボードが趣味である。

彼女の首筋に、ほのかなキスマークか引っかき傷のように、小さな手術痕が辛うじて見分けられる。彼女は2週間近く入院していたが、その間も退院したくてしかたなかった。当時はほんとうに痛かったが、いまは痛まないと、彼女は笑い、次のようにいった――

「すぐ立ち直る力が、わたしのトレードマークなのです。いつでも前進あるのみとばかり、やっていけます」

彼女の主な心配の種は両親、とりわけ、娘が癌にかかったと知って、泣きだした母親である。彼女の二人の姉も検査を受けたが、異常がなかった。

多くの日本人は放射能による遺伝的な異常をとても恐れてきた。多くの人たち、特に年配者たちは、あらゆる癌が生死にかかわると考えており、この若い女性でさえ、医者たちが彼女の病気について説明するまでそう思っていた。

若い女性は、以前のボーイフレンドの家族が彼女の病気にこだわって、二人の関係に難色を示したと話した。彼女は、いま新しい自衛隊員のボーイフレンドを見つけて、その彼は彼女の病気を理解してくれていると嬉しそうに言った。

今年初めのこと、甲状腺癌患者の支援団体が立ち上がった。この法律家や医師たちが名を連ねる団体は、参加した数家族に面接取材したいという報道陣の要請に対して、そのような形で注目を浴びると危険になりかねないとして、すべて断った。

その団体が3月に東京で記者会見を開いたとき、スカイプ中継で甲状腺癌にかかった子どもの父親たち二人が登場したが、身元を隠すために、顔は映されていなかった。父親たちは子どもたちが受けた医療を批判し、癌と核メルトダウンは無関係であるという政府の言い分が正しいとは思えないと発言した。

この団体の助言役である弁護士、河合弘之氏は、患者たちが日本版の集団代表訴訟を起こして、賠償金を要求すべきであると信じているが、訴訟に踏み切るのに、まだ時間がかかるだろうと考えている。

河合氏は、「患者たちは分断されています。力を合わせる必要があり、たがいに話し合う必要があります」と最近の面接取材でAP通信に語った。

福島県の子どもたちの甲状腺癌一斉検査を実施している医師、その他の専門家たちの委員会が見つかった症例の数を定期的に公表しており、その症例数は着実に増加している。

その委員会は今週の記者会見で、甲状腺癌症例は放射能に関連していないという見解に固執した。説明に一番困る症例は2011年時点でほんの5歳だった子どもで検出された癌であり、これはこれまでに見つかったなかで最も幼い子どもの症例だった。専門家たちはそれでも、1症例だけでは有意な数とはいえないとして、この事実を一蹴した。

委員会の座長を務める医師、星北斗氏は、放射線と「なんらかの関係があるとは考えにくい」と発言した。

福島の写真家であり患者団体の顧問、飛田晋秀氏は、声を上げることに不安があるが、それだけでなく、癌と放射能についても不安が大きいと述べた。

飛田氏は、ある時、福島に住んでいる小さな女の子に、放射能にまつわる悪いイメージのため、結婚できるかしらと聞かれたさい、答えに詰まり、後ほど、泣けてきたと話した。彼は、患者たちについて、こういう――

「あの人たちは孤立していると感じています。親類に告げることすらできません。だれにも話せないと感じています。質問をすることは許されていないと感じています」

AP通信に話してくれた女性もまた、アメリカの独立系映画製作者、イアン・トーマス・アッシュ氏の作品の映像ビデオで、自分の考えを表明した。

彼女は自分がラッキーだと考えている。津波で約18,000人の人たちが死亡し、さらにもっと多くの人びとが天災とそれにつづく核事故で自分の家を失ったが、家族の家は無事だった。

彼女は核発電についてどう思うか質問されると、日本に核発電所は必要でないと穏やかに応えた。核発電所がなければ、自分は病気にならなかったと、彼女は言い加えた。

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映像作家、アッシュ氏のビデオ・インタビュー:

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影山優理記者のツイッタ―ID@yurikageyama
影山優理記者のAP記事アーカイブ:http://bigstory.ap.org/content/yuri-kageyama

【クレジット】

AP, “Woman breaks silence among Fukushima thyroid cancer patients,” by Yuri Kageyama, posted on June 7, 2016 at;

【付録1

イアン・トーマス・アッシュ氏のブログ、“documenting ian, blog”:





英日解説文は、このリンクをクリックのこと。

【付録2



「311甲状腺がん家族の会(311 Thyroid Cancer Family Group)」設立趣旨書

.11原発事故後、福島県では、事故当時18歳以下の子どもたちを対象とした甲状腺検査が行われ、私たちの子どもたちを含め166の子どもたちが小児甲状腺がんやその疑いと診断されています。さらに、北茨城などの関東地方でも、小児甲状腺がんやその疑いの子どもたちが確認されています。

これら小児甲状腺がんの多発やそれぞれの個別の小児甲状腺がんについて、今、多くの専門家が、東京電力福島第一原発事故が原因とは考えにくいと主張しています。しかし、私たちは、 その言葉に戸惑いを感じています 。福島原発事故で大量の放射性物質が放出され、私たちと私たち家族は被ばくしました。福島原発事故が原因ではないと否定する根拠は見当たりません。

私たちの子どもたちは、唐突に甲状腺がんと宣告され、その瞬間から、がんと向き合わざるを得ない人生を強いられています。同時に、甲状腺がんと診断された子どもを持つ私たち家族は、まわりの目を恐れるなど、様々な理由で孤立を余儀なくされてきました。そのため必要な情報も共有できず、さらに悩みを深めています。

この会は、こうした患者家族同士が交流するために設立しました。今後、患者の治療および生活の質を高めることができるように情報交換を行い、家族間の交流で見えてきた様々な課題の解決のために取り組んでいきたいと思います。

2016312
311甲状腺がん家族の会



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